■淡い愛と熱い恋


時は、1000年前の京の都。
法親王・永泉は、修行の場である御室寺から少し離れたところにある、自宅にいた。
時が過ぎるのは早いもので、先ほどまでは夕焼けで空が茜色に染まっていたと言うのに、
黒の帳(とばり)が下ろされた桜の背景には、見事な満月が覗いている。
ほかの一般的な修行僧たちとは違って、今上帝の異母兄弟である永泉は、帝が直々に作らせた避暑地も兼ねた自宅で、
ある人物が訪れるのを待ちわびていた。最低限の女房しかいないゆえ、静かな時の流れを味わうには、もってこいの場所だった。

「今宵もまた、美しい満月ですこと。」

夕餉の片づけをしている女房が、優しく、永泉に語り掛ける。

「ええ、本当ですね。」
「皇子には、どんな風情も敵いませんけどね。」

皇族の身である永泉は、一般の貴族に求められる一般教養のほかにも、皇族しか学ぶことの出来ない多くの知識や、
皇族独特の雰囲気もあり、上品な物腰や端麗な容姿も相まって、仲間の僧侶たちにとどまらず、
世話役の女房や御室寺の近くに住む庶民にも人気があった。
しかし、そんな永泉にも、最近、大きな悩みが出来た。
単刀直入に言えば恋愛事なのだが、相手が男となればどうだろう。
確かに仏教は、どこかの異国の宗教とは違って、同性愛を御法度とはしていない。
その証拠に、永泉の周りにも少なからず、そういった僧侶のなかにも、そういった者がいる。
だが、女性との恋愛も全くなく男性に恋心を抱いてしまった自分に、ただただ戸惑うばかりである。
しかも、相手が、同じ八葉の地の青龍と来た。主である龍神の神子とともに京の都へと迷い込んできたのだが、
今とのなっては彼のことが頭を過ぎるだけで、体中のありとあらゆる場所が、反応を示してしまうほどである。
初めて顔をあわせた時には、口が悪いのと上背のせいもあって、怖い印象ばかりが先立っていたのに。
矛盾だらけの自分の心に、きっぱりと決着のつけられない自分が、何とももどかしい。
そんなことを考えていると、永泉の心を惑わせている張本人が現れた。

「よお。」

紺色の線が幾筋も走っている着物を、珍しくきちんと着こなしている彼に、永泉ははっとした表情を見せる。
鮮やかな髪をたたえている、見慣れぬ履物と刺青の口の悪い少年と言う何気ない印象だけだったなのに、
体の関係にまで及んでいる、あつあつカップルにまで成長している。

「天真殿…、お会いしたかった。」

幾度となく呼んだ名前、幾度となく見た姿、そして…。自分の心と体の全てを捧げても満足のいかない、
最愛の相手を体中で歓迎すると、自然と鼓動が早まっていく。
夕餉も済んで、永泉達の邪魔にならぬよう、何人かいた女房たちは、音もなく足早に去っていく。
静かに抱き合う二人は、お互いの十分に感じあうと、縁側から庭へと続く階(きざはし)の一番上の段に腰を下ろす。
漆黒の空には、現代の街中ではまず見ることの出来ない、満天の星達が、降り注いできそうなほどに散りばめられている。

「お前、内裏に行った時、エロ貴族に強姦されそうになったんだって?」

天真は、永泉のことを軽く責めながら、長くてしっとりとしている髪に指を絡める。
2年前の出家の際、剃髪されているはずの永泉の繊細な髪の毛は、
永泉が還俗してくれることを望んだ帝直々の願いで、断髪だけですんでいる。
柔らかな髪の毛は、癖のないまっすぐなもので、龍神の神子に限らず、多くの女性たちにかなり気に入られているらしい。
軽く髪の毛を優しくかきあげると、高揚している顔が、はっきりと照らし出される。
二人とも同じ歳のはずなのに、愛くるしい容姿のおかげでどこかしら、幼く見える。

「何故、そのようなことをご存知なのですか?」
「友雅が、こっそり教えてくれたんだよ。今度の相手は、大納言の血筋のやつだったって。」
「友雅殿…っ。」

天真は、普段は、左大臣の所有する武士団領の棟に仮住まいしているため、神子の元を訪れる八葉だけでなく、
高位のお役人たちからの情報までもが、都の外で修行をしている永泉よりはやく流れてくるらしい。
特に、あまり口の重くない左近衛府少将様は、殿上人の特権を濫用して、内裏で起こったことを、
他人の都合などは深く考えずによくしゃべるので、聞こうと思わなくても、自然と耳に入ってくるのだった。
永泉は、自分を入れても、極少人数しか知らない恥ずかしいことを、最愛の人に知られてしまって、天真から視線を外す。

「で、犯されたのか?」

一番聞かれたくないことを聞かれて、ぴくりと小さく体が跳ねて、表情が僅か(わずか)に硬直する。

「…いいえ。全てを剥ぎ取られてしまう寸前で、友雅殿が助けてくださいましたから。
…性器や乳首などは、乱暴にされましたけど、それ以外は、本当に大丈夫でしたから。」

さらに赤面しながら、淡々と話す永泉の話を天真は、表情を変えることなくじっと聞いている。
話が、ひと区切り付いても、天真が返答をしないので、永泉は、零れ落ちてくる髪の毛を手際よく束ねる。
少女のような顔が前面にさらされるのを横目で確認すると、天真は、待っていたかのように桜色の唇を貪り始める。
急な天真の行動に、永泉ははっとしたような表情を一瞬見せたが、しばらくすると落ち着いてきたのか、自分から天真の舌を求めてくる。

「っ、しようぜ、今から…。我慢、出来ないだろ?」

天真の、曇りのない瞳での問い掛けに、心の底から自制心を奪われた永泉は、静かに頷くと、綺麗に準備された、塗籠へと入っていった。

光の入らぬ塗籠の中は、一点の光もない。
その中に、うっすらと浮かび上がる永泉の白い体は、早くも上下している。
男の体とは思えないようなキメの細かい肌を、たくましい天真の体が余すところがないように力強く抱きすくめる。
体が動くたびに、お互いの甘いと息や喘ぎが暗闇へと吸い込まれていく。何度も唇を求め合っていた二人だが、
天真は、頭の位置をずらして、永泉の胸の飾りへと到達した。薄い椿色の胸の飾りを、角度を変えながら、
舐めたり軽く歯を立てたりして、少しずつ限界へと導いていく。
かすかな反応にも大袈裟なまでに反応する永泉の体は、激しく求めてくる天真に答えるように大きく反っていく。
その反応に、さらに強い刺激を加えていく天真は、衰えることを知らない。

「天真殿…っ、そっと…。あうっっっ。」
「永泉、大丈夫だからな…。」

まだ、優しく心のこもった行為の感覚に十分に慣れきっていない永泉は、
中心に触れられると大きくのけぞって、開放の時へと向かっていく
。永泉は、いろんな貴族たちにいろんな方法で犯されてきたが、天真との行為は、それとは全く別のことのように思えてしまう。
体の関係を持つまでは、お互いのいろんなことを語り合って、趣味や特技のような基本的なことから始まって、
トラウマやコンプレックスなど、普通は口にしないようなことまで語り合った。
その中には、共通点もあったし、食い違った点もあったが、
それぞれがどんな人間かを熟知しあっているから、違う行為に思えてしまうのだろうか。
永泉の頭の中を駆け巡っていたことは、天真が永泉の中心に手を添えたことで、一気に弾け飛んだ。
天真は決して、永泉の中心を口に含もうとはしない。
永泉のトラウマの大半は、強姦によって出来たものが多く、その中でも割合が大きいのは、口で吸われることらしい。
ほかに挙げていけばキリがないらしく、行為の随所で言の葉を添えるらしい。
ただ、天真が守らなければいけないことは、決して自分を見失って暴走してはいけないことだった。
自分を繋ぎ止めることで、永泉の細かな反応を観察し覚えていけるのである。
それに、永泉が望んでいるのは、優しく愛でる様な行為なのだから。
すでに、永泉の体は、どこもかしこも性感帯で出来てしまっているらしく、なんでもないところに触れられても、
甘い声を上げて体を捩る。まだ、数えるほどしか体を重ねていないのだが、天真は、敏感にそして淫らに反応する永泉の体の虜になっていた。
か細い法親王様は、同じ年齢なのに、背丈は愚か、胸囲も肩幅も筋肉の量もあそこのサイズも、
どれを取り上げても、一回りは小さかった。それなのに、しっかり反応しては射精もする。
そんな健気な永泉を見ていると、思わずかまいたくなってしまうのだった。

「こわ…いっ。天真殿…っ。」
「何がどういうふうに怖い?」
「天真殿が、大きくて、熱い、から…。」
「大人の男は、みんなこれくらいの大きさしてるって。お前は、ここの成長が、少し他人より遅いのかもな。
 安心しろ。すぐに、これくらいになるって。」
「…っ。ぁ、出そ…うっ。ああ…っ。」
「我慢するなって。」

天真は、かなりの大きさまで膨張しているところを、自分より一回りは小さいそこと重ねて扱き始めた。
自分のよりも巨大なモノが重ねられただけで、永泉のそこから、透明な液が雫となって、自分の茎を伝っていく。
この程度のことは、強姦で何度もやられていて、恐怖の対象になっていたはずなのに。
自分の中での問いかけが再会されようとしたとき、天真の大きな手のひらが、
二人分の陰茎をつかんで、激しく扱き上げてきたのだった。
気を抜いていた永泉は、突き上げるような刺激に、悲鳴とも取れる喘ぎを盛大に上げる。
苦し紛れに、腕を伸ばして、少しでも刺激を和らげようと、天真のしっかりとした背中にしがみつく。

「…っく。お前のも、熱くなってる…。こんなに濡れてるし…。」

天真は、永泉の状態を永泉に示すため、次々に零れ落ちてくる雫で濡れて淫らに鈍く光るところを、わざと大きな音が立つように扱き上げてやる。

「や…っ。やめてくださ…いっ。あうっ。あ…、だめ。天真殿――――っ。」

何度か手を上下しただけで、永泉は、呆気なく精を放ってしまった。
びくびくっと、何度か体を震わせると、そのまま気を失って褥の床に体を無造作に投げ出してしまった。

「熱…っ。あ…っ。」

熱い永泉の液が勢い良く天真の中心に発射されると、天真は、あまりの熱さと勢いと永泉の淫らな様に、
自分も抑えられなくなって、永泉よりもたくさんの精を吐き出していた。
天真は、自分の液を十分に出し終えると、大きく深呼吸をして、傍らで気を失っている愛人に目を向けた。
今夜の彼は、いつも以上に敏感に反応していたのに、出した量は、普段の時よりも少なかった。
天真は、土御門殿で聞いた友雅の言葉を、しっかりと受け止めた。

「ごめんな、永泉。」

天真は、永泉の細い裸体に涙をこぼしていた。



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