■火原と柚木の帰宅道中膝栗毛 2
「ねぇ、柚木。体、大丈夫?」
「うん。さっき薬を飲んだから。」
学校を飛び出して3時間後、5件目の洋服屋で柚木の体調不良を察して、
人気の少ない静かな公園で休憩をとった。火原の最も恐れていたことが起こってしまった。
柚木は、登下校さえも自家用車に頼っている。それを熟知しているだけに、
火原は激しく落ち込んでいた。
自分が無理を言って連れ出したりしなければ、柚木も自分もつらい思いをせずに済んだのに。
火原のそんな様子を見た柚木は、そっと火原にもたれかかった。
「柚木!?」
「ごめんね、火原。ずっと、火原が僕を誘って遊びに行きたがっているの知ってたよ。
体のこと、考えてくれてたんだよね?ありがとう。もう大丈夫だから、商店街に戻ろう?
あの赤いシャツ、プレゼントさせてくれる?」
柚木が、こういう性格なのは知っていた火原だけれど、自然と大粒の涙が次から次へと
わき出てくる。身長は火原のほうが大きいけれど、柚木の器が大きく、体格のいい火原よりも
大人だった。本格的に泣き出した火原を柚木は、静かに受け止めてくれていた。
しばらくして、火原はすっかりと泣き止んだ。まだ、目頭が赤い。
「ありがとう、柚木。俺のほうが謝らないといけないのに。」
「何も言わないで、火原。」
「ねえ、一曲あわせない?また人ごみに戻って、柚木につらい思いさせたくないしさ。」
「いいよ。ガヴォットでいい?」
「うん♪」
2人が奏で始めると、人気のない公園が小さな演奏会になり、終わらせて学校へ戻ろうか
という頃にはストリートパフォーマンスなんかよりも規模の大きいリサイタル会場が出来上がっていて、
拍手の波に押されそうになっていた。
太陽が就きに空の半分以上を譲った頃、2人は正門前に戻ってきた。
「今日はありがとう。火原、また誘ってね。」
「うん!今度は、屋内であんまり人の多くない場所を選ぶようにするね。」
「ほら、車が来ちゃうから。」
「じゃあ、いくね。」
極上の笑顔を向け合うと、火原は、いつもの方向へと駆け足で去ってしまった。
途中、最悪のハプニングがあったものの、念願の"柚木と遊ぶ"を果たした火原の心中は
真夏の青空だった。
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