■心の色は イノリサイド


今、俺は、あかねたちの世界にいる。理由は、あかねに言われたから。
って言うと中途半端かも知れねえ。けど、本当のこと口にするなんて小っ恥ずかしいこと、俺には出来ねえよ。
まあ、天真とか頼久なら言うかも知れねえけど。
京で始めてあかねにあった時、根性あってみる目ある女だって思っただけだったのに、
そう思った日から、あかねのことが頭から離れなくなったんだ。
それから、毎日あって喋ったりしてたけど、姉ちゃんとか、近所のおばちゃんと喋ってるのと違う感覚があったんだ
ぼーっとしてても、行水してる時も、仕事の合間でも、考えるのは四神を取り返すことよりも先に、あかねのことになってた。
あかねの誕生日の時、そのことあかねに言ってみた。こんな気持ち、初めてで、よくわかんねえ、って。
お前らの世界じゃ違うらしいけど、夢の中に人が現れるのは、こっちの世界じゃ、そいつが俺ん事憎んでるって事だ。
でも、あかねが俺をうらむわけがない。じゃあ、どうして…。そしたら、あかねは、私と同じだねって。
一瞬わけがわかんなかった。俺の質問に答えてねえじゃん、って思って、その後すぐに、あかねの言ったことの意味に気づいた。
今でも、そん時のこと思い出すと、顔が真っ赤になっちまう。でも、後悔なんかはしなかったし、今もその気持ちは変わらない。
御いつも俺のこと、そういう風に思っててくれてたってことが分かったから。
そんでもって、お互いにとってお互いが必需品だってことが分かったから、
こうして、あかねたちの世界に来ちまったわけ。
でも、今日に残してきた姉ちゃんのことが気になる。
永泉の兄ちゃんが、年貢を軽減したり、京を守った褒美を結構くれたおかげで、
少しは楽になったかも知れねえけど、体弱いから。こんな綺麗な満月を見てると、どうしても心が弱くなっちまうなあ。

「イノリ君!」

なんて、ガラでもないこと考えてたら、襖(ふすま)の向こうからあかねが俺を呼んだ。こっちの世界と京都のギャップは大きい。
でも、こっちに来て1ヶ月たつから、少しは大丈夫になってきた。1日3食うまい飯は食えるし、寝るのもあったかい布団がある。
こんなに贅沢な生活、庶民は望めないからな。

「イノリ君?」
「あ、俺になんか用?」

あんまり真剣に姉ちゃんのこと考えてたら、あかねが心配そうに、もう一度、俺の名前を呼んでくれた。
んで、俺が、いつもの調子で返事したら、勝手にはやの中に上がってきた。
一応、「年頃の男」の部屋なんだから、入ってもいい?くらい聞けよな。
まあ、あかねなら、いくらでも出入りしても良いんだけどさ。
それにしても、あかねのヤツ、何で浴衣なんて着てるんだ?

「何で浴衣着てるんだ?」
「今日ね、天真君と詩紋君と近くのお祭りに行くんだけど、イノリ君も、一緒に行くでしょ?」

俺は、こっちの世界に着てから、ずっとただ飯ぐらいをしてたわけじゃなくて、ずっと勉強してる。
最初は、何も出来なくてダメダメだったけど、今じゃ、読み書き・計算は一通り出来るようになったし、
漢字のほんの一握りと、外来語の一握りくらいなら、出来るようになって来た。
俺もこんなだったし、あっちの二人も学校とかで忙しいらしいから、全くあってもないし、名前を聞いても、喋る機会もなかったから、
正直言って、かなり舞い上がってる。

「良く良く!絶対に良く!天真たちと会うの久しぶりだしな。…けど、浴衣なんて洒落た物、持ってねえぞ、俺…。」
「京で着てた水干と袴で、十分だよ。きっと、周りの人も浴衣だし。それに、天真君たちも、そっちのほうがきっと喜ぶよ。」

そういい残したあかねは、天真たちと会う時間も、場所も何も言い残さずに、部屋から出て言っちまった。
俺は、どういう段取りで準備すればいいんだよ―――!
とか何とかいいながら、タンスにしまってある懐かしい着物に袖を通して、鏡の前に立ってみた。
久しぶりに見る着物の俺も、なかなか男前じゃん♪
着替え終わってしばらくして、俺たちは、天真たちとの待ち合わせの場所に一緒に向かった。
俺はそういうつもりはなかったんだけど、あかねが、恋人通しに見えるから、
って理由で、手をつないで例の場所へ向かった。こいつの手、あったかくて虹みたいだ…。

タバコ屋の角を曲がって、後数尺ってところで、懐かしい紺色の着物が見えた。あのもみじの裏地にも、見覚えがある。
というか、半年以上も一緒に生活してて、気づかないはずねえだろう!?そいつの名前も顔も、昨日あったみたいに鮮明に思い出せる。

「天真―――――!」
「お、イノリか!?あかね、よくこいつを引っ張ってこれたなあ。」
「私が無理やり引っ張ってきたんじゃないもの。イノリ君が決めたことだよ?」
「へえ。そいつは、感心だな。」

こうやって喋ってると、天真は何一つ変わってない気がする。喋り方にしろ、口に出す言葉にしろ、
本当に天真に会ってるって言う実感がわいてくる。俺、こっちに来て、良かったのかも…。

「ねえ、天真君。詩紋君は、まだ来ないの?」
「ああ。あいつ、急に塾の模擬テストが入ったから、今日はごめんね、だってさ。さっき、俺のところにメール来てたから。」
「大変ね、詩紋君。」
「でも、あいつなら上位の高校は入れるって、信じてるぜ、俺は。」
「私もだよ。」

二人の会話の状況が、どうもうまく飲み込めねえ。詩紋がこれないってところまでは分かったけど、その理由がさっぱりだ。

「なあ。なんで詩紋は来れなくなったんだ?俺にも分かるように説明してくれよ。」
「あのね、詩紋君は、新しい学校に入るための試験のために、大忙しなの。だから、そっちのほうに関連してる事柄を、
今は優先したいんだって。イノリ君に会いたくないっていうわけではないから、そこのところ、分かってあげてね。」
「ああ、分かった。安心しろ、あかね。俺は、そんなに器の狭い男じゃねえから。それに、誰よりも詩紋の事、分かってるつもりだしな。」
「んじゃ、ちょっと物足りない気もするけど、行くか!」

天真の声を皮切りに、俺たちは、祭りのために使われてる賛同を、ゆっくりと歩いていった。見たこともない食い物を売ってる出店や、
きれいな色のなすびみたいなのを売ってる出店とか、出店だけでも、見たこともないものだらけで、どれを見てもおもしれえ。
それに、ちょうちんの明かりと人口の明かりが、同時にと持ってるのも、変な感じがするけど、慣れればすごく良いように感じる。
寺の境内が見えてきた時、何か見っけた天真が、急に変わった。

「あ…。悪ぃ、ふたりとも。ちょっと、久しぶりに見かけたやつが、そこ通って行ったから、声掛けてくる。先に行っててくれよ。」
「うん。じゃあ、何かあったら、携帯電話に連絡して。」
「ごめんな、イノリ、あかね。」

天真は、全速力で左手のほうに走って行っちまった。取り残された俺たちは、
そのまま境内に行って、仏様に詩紋の合格祈願と姉ちゃんの無病息災をお願いした。
出店で食い物を、腹いっぱいになるまで食べて、色のついたナス(ヨーヨーって言うらしい)をとって、
最後の打ち上げ花火を見て、二人で、行きと同じように、手をつないで帰った。その間、天真からの連絡は、何もなかった。
あかねは、天真のことだから大丈夫だろうからって、こちらから連絡はしなかった。
俺、今日は、詩紋に会って、鬼だって言ってたときのこと、改めて誤ろうって思ってたのに。
そうすれば、心の中のもやもやした罪悪感って言うものが、すっきりすると思ったから。
でも、詩紋はいいやつだから、そんなこと言わなくてもわかってくれてるだろうな。
けど、俺の心の整理をしたかった。かなり残念だ。まあ、あかねと手をつなげたのは、ラッキーだったけど…。

姉ちゃん。俺、こっちの世界に来て、良かったと思ってるよ。姉ちゃんも大変だろうけど、
姉ちゃん。俺、こっちの世界に来て、良かったと思ってるよ。
姉ちゃんも大変だろうけど、永泉の兄ちゃんもいいやつだから、助けてもらえよな。
永泉の兄ちゃんもいいやつだから、助けてもらえよな。


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