■Shopping of Adult


今日は、土の曜日。
守護生と女王候補以外は、王立研究員も休日なので、庭園は大いに賑わっていた。
数人で上品に会話を楽しんでいるマダム、ボールで遊ぶ子供たちと大型犬、中むつまじくぴったりとくっついて歩く老夫婦。
そんな庭園の平和な様子を満足そうに見守る露天の店主は、まぶしい太陽に目を細めていた。

「今日もええお天気や。これも、女王陛下のサクリアのおかげなんかなあ。」

時間が、正午に近づいて人が途切れた頃、宇宙屈指の財閥の跡取りは、何気なくつぶやいた。
もし、聖地の人々に自分がウォン財閥の総帥の後継者だと知れていたら、
こんなふうには接することは出来ないし、接してももらえないだろう。もともと貴族社会が苦手なチャーリーは、
同じ目線で様々な様子を見られる露天の店主と言う立場を、大いに満喫していた。

「一人で悦に入ってるところ悪いんだけど、画材を置いてる?」

昼食をとるために軽く店をたたんでいると、滅多に来ないお客の声が降って来た。
爽やかだけれど艶やかな甘い声に、チャーリーはお客の顔を見なくても、相手が誰か分かった。

「セイランさん!?ここにいらっしゃるなんて、珍しいですなあ。」
「ちょっと、カンバスを切らしちゃってね。ここなら置いてるかと思ってさ。」

どこかの惑星の民族衣装のような白い服に藍色のサラサラの髪が、独特の声と合わさって女性らしさを増す。
それにくわえて、棚においてある商品を品定めする様子もどこか艶かしくて、とても男性であると確信しがたい。
チャーリーはそんなことを考えながら、セイランからの注文に答える。

「こんなんでしたら、木箱に2つほどありますけど?」
「いいね、全部もらうよ。」
「でも、セイランさんがここで画材を買いはるなんて、珍しいこともあるもんですなあ。」
「いつも数ヶ月に一度、注文して届けさせているんだけど、筆の進みが速くて。
それに、新女王の即位式の次の日に聖地で個展を開く許可を、ロザリア様から直々に頂いてるし。」
「セイランさんが個展を開くなんて、久しぶりですねえ。前に開きはったんはいつでした?」
「聖地に来る前だよ。きっと、新女王もロザリア様方も御覧になるだろうから、手を抜けないよ。」

神鳥の宇宙でもかなりの高額で取引されるセイランの絵画は、展覧会や個展と言う場で一般のものに公開される機会が非常に少ない。
たいていはオークション会場に出でしまうが、それでも稀である。
貴族社会は嫌いでもアートをそれなりに好きでいるチャーリーは、
個展の話が一区切りつくと足元の2つの大きな木箱を見た。
ひとつの箱には5枚のカンバスが入っていて、チャーリーが持つのにもかなりの気合が必要だった。
そして、改めてこれを買い求めてきたお客を見る。

「セイランさん、これ、今すぐ必要なんですか?」
「いや。今夜までにひとつあれば十分なんだけど…。それが何か?」
「こんな重いもん、セイランさんには持たせられ変から、夕飯の時間くらいに学芸館に届けさせてもらいますわ。」
「それは助かるよ。んじゃ、代金もその時に支払うよ。」
「まいど、おおきに。」
「こちらこそ。」

セイランが去ってから、チャーリーは荷車にその木箱を積み上げてから、昼食へと向かった。
後に、チャーリーは自分から学芸館に行くと言った事を後悔することになった。

なぜか、土の曜日の夕方は早く訪れるような気がする。守護聖たちが昼下がりにやってきたり、
メルやティムカが午前中の話や勉学に関することを説いたりするのは、ほかの曜日と変わらないし、
女王陛下が気まぐれを起こして時間の速度を上げたわけでもないのに。それなのに…。
チャーリーはらしくないことを考えながら、虫養いにハニークッキーを二枚同時に頬張った。
緑の守護聖が配っていたのを賜った、世に言うありがたい品だ。
昼間にさんさんと輝いていた太陽がつきと交代する頃、チャーリーは、
すっかり店じまいを済ませて、学芸間へ行く前に一息をついていた。

「そこにいるのは、チャーリーではありませんか?」

ボーっとクッキーを頬張っていると、涼しげな声が自分の事を呼んだ。

「リュミエール様。こんなお時間に何のようですか?そろそろ、夕食の時間やと思いますけど?」

ズボンのポケットに入っている懐中時計を取り出しながら、青銀色の髪をしている水の守護製にやわらかく接する。
物腰が柔らかなリュミエールにはやわらかく接するけれど、それは隠し事が出来ないことの裏返し。
けれど、この人の人柄が、心の中をさらけ出す不快感を取り去ってくれる。
チャーリーの気の合うタイプのうちの一人だった。

「私はティムカが夕食に誘ってくれたので、これから学芸間へ向かうのですよ。
あなたのほうこそ、こんなところで座り込んでいたら風邪を引いてしまいますよ?
荷物も多いようですし、よろしければ、私の馬車を呼びましょうか?」
「いいえ。奇遇ですねえ、リュミエール様。俺も、これから学芸館に向かうんです。
セイランさんからこれを届けるように頼まれてるんです。
まあ、厳密に言うと俺が運んだるって言うたんですけどね。」
「そうなのですか。それにしても大きな荷物ですねえ。私に、一つ持たせてください。」

そういうと、道いてもチャーリーと変わらないくらいの腕をしているかれるがるとかんば推理の木箱を抱えあげて、
すべるように学芸館への道を歩いていってしまった。

「やっぱり、守護聖様は侮られへんなあ。」

チャーリーは、そんなリュミエールの後を荷車を押しながらゆっくり追いかけた。



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