■火原と柚木の帰宅道中膝栗毛 1


「柚木、ちょっといい?」

夕暮れの迫る星奏学園高等部の3年B組の教室に、2人はいた。

「どうしたの、火原?そんなに改まっちゃって。  もしかして、またノート取ってなかったの?」

一部の女子には盲目的なファンのいる物腰柔らかな華道家元の御曹司
柚木梓馬は、いつもと少し違う申し訳なさそうな表情の大親友・火原和樹に引き止められた。
涼やかな初秋の風が、クリーム色のカーテンを静かに躍らせる。他のクラスメイト達は、
各々の向かうべき場所へと行ってしまったらしく、もう2人だけになっていた。

「ううん。ノートは取ってあるんだけど、その・・・。」
「?」

もじもじと視線を泳がせている火原に柚木は首をかしげた。
普段から戸惑うことなく言葉の出てくる火原には珍しい行動に、
どう対処すべきか迷っていた。

「火原、どうしたの?」

柚木の呼びかけに、火原の視線がちらりと動いた。柚木の手には制カバこと フルートケースが握られている。

「火原?」

再び呼ばれるけれども、火原は頭をかいたり柚木を見たり、はっきりとしない。
困ってしまった柚木は向かえに来ている運転手に電話を入れると自分の席に腰を降ろした。

「ごめんね、柚木。車の人、待ってるのに。」
「気にしないで。それより言葉は決まった?」
「・・・・うん」
「言ってみてくれる?」

決して強制するようなことは言わない柚木が優しく背中を押してくれたおかげで
火原の口が動き始める。

「今から、どこかに遊びに行かない?もちろん昼飯代は俺が出すからさ。
 そんなに遠くじゃないよ。駅前の商店街だからさ・・・。ダメ、かなぁ」

思いっきりばらまいた火原は言い終わると、柚木の顔を見た。
少し圧倒されたような表情でしばらく固まっていた。この少しの間が
火原にはカップメンが出来上がるのを待つより長く感じられていた。そして、
ゆっくり柚木が携帯電話を取り出して、再び車に連絡を入れる。

「せっかく来てもらってて悪いんだけど、ちょうど先制に用事を頼まれちゃって
 すぐにそっちにいけそうにないんだ。だから、17時ごろにもう一度学校に来てもらえる?」

柚木が電話を切ると、校門の高級車はどこかへ行ってしまった。

「柚木!?じゃあ・・・。」
「大丈夫だよ。予定もないから安心して。」

心配と不安で一杯だった火原の顔が、序々にいつもの笑顔へと変わっていく。
自分も制カバンと相棒を音速で持ってくると、柚木が吹き飛んでしまいそうな勢いで
柚木の手を引いた。

「さあ!俺が案内するから、早く行こうよ、柚木!!」
「そんなに引っ張らないで。もう火原ったら。」

こうして火原は長期間抱いていた願いを叶えることが出来た。




2に進む

戻る



Copyright(c)2003-2005 Kurea Kusakabe (webデザイン風使いのフォウ) All right reserved.
当サイトの作品の無断複製、転載、配布等全ての著作権侵害行為を固く禁止致します

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送