■淡い愛と熱い恋 5


「なあ、友雅。昨日、永泉のやつ、俺に抱かれたくないって、言って来たんだ。それだけじゃない。顔も会わせなかったんだ。」

翌日、二人別々に土御門を訪れた友雅は、天真から、予想外のことを耳にした。
まあ、朝方にあれだけの行為をすれば、一日腰が痛くてたまらなかっただろうとは思っていたが、それほどまでになっているとは。

「で、あの方が今日の謁見に現れなかった理由は、わからないのかい?」
「ああ。寺のやつらに聞いても、誰にも会いたくないって言ってるから、
そのまま帰れって、門前払いだったし。…俺、何か、あいつに悪いことしたかなあ。」

友雅は、本気で悩んでいる天真を、気の毒そうに見つめるだけで、掛けるべき言葉は、全く思いつかなかった。
しかし、「抱かれたくない」という要望はわからなくも無いが、「会えない」という要望は、何かおかしい。

「私も、少し気にかかるね。今日の勤めが終わるのは、馬の刻上がりだから、
それぐらいになったら、朱雀門の前に来ておくれ。一緒に永泉様のご機嫌伺いに行こう。」
「お前が?珍しく真面目じゃねえか。興味半分で来るんなら、まっすぐ家に帰って寝ろ。」
「侵害だなあ。私は、ただ永泉様のことを、純粋に心配しているのだよ?」

友雅の自信に満ちた発言を、天真はどこまで信じるべきか迷った。
しかし、自分よりも皇族の内部事情にも詳しい上、殿上人と会って、普段からそういったことを見聞きしているだろう。
自分と出会う前からの永泉のことも良く知っているだろう。
そんなこと全てを考え合わせた上で、友雅に頼ってみることにした。

「わかったよ。今回だけ、お前に頼ってやるよ。馬の刻上がりに朱雀門だな?」
「うん。君も、最近反抗期を抜けて、少し素直になったのかな?まあ、どちらでも私はかまわないが、
言われもない疑いが晴れてよかったよ。それでは、私はこう見えて意外と忙しいのでね。早速車で近衛府に行ってくるよ。」

衣の裾を軽く翻した友雅は、藤姫に何かを言い残して、車寄せから車に乗って、出勤してしまった。
天真は、相変わらず掴み所の無い友雅を、少し理解しようと思った。

普段、放免の仕事と武士団の訓練とを並行している天真は、訓練が終わると仕事は別の者へ任せて、
そのあたりの店で買った団子や餅を頬張りながら、朱雀門の入り口で、友雅を待った。
別に、官庁街の中へ入ることは禁じられてはいないのだから、友雅の勤める左近衛府まで行ってもかまわなかったのだが、
自信過剰で、実年齢以上に人生経験豊富な御貴族様のために出歩くのは、性にあわなかったので、行くのをやめた。
しかし、あまり人の恋愛関係には興味を示さない友雅が、永泉にここまで執着するのには、何か裏があるのかもしれない。
天真は、友雅が発言した朝から、ずっとそのことが引っかかって離れない。
友雅の性格上、帝の弟宮であることが関係している、などというのは、まず考えにくい。
それに、友雅に男を抱く趣味があるというのも、誠の噂としては、耳にした事がない。
しかし、異世界からやってきた天真でも、友雅の噂くらい知っている。
夫のいる女性でも、そのあたりの町娘でも、身分のつまらない助成でも、的を定めた女性は我が物にする。
それが、天真の中にインプットされている友雅像だった。天真は、そのあたりを問いただすべきか迷った。
しかし、相手にその気がないのなら、いくら、相手が友雅であろうとも、傷つける結果になりかねない。
でも、本当のことを聞いてみないと、相手の心の中は分からないのも、また、事実である。
そんな葛藤をしていると、豪華な車が一台、自分の前に滑り込んできた。
引いているのが牛なだけに、そんなに早くはないものの、ゆったりと移動してきたものが、
自分の目の前に、急に現れてきてと持ったので、天真は、思わず戸惑った。
しかし、美しくきらびやかな着物の襲ね(かさね)が拝見できないので、車の主は、男であるらしい。

「何だ、お前かよ。えらく豪華な登場の仕方だなあ。貴族ってのは、みんなこうなのか?」
「さあねえ。待たせてしまったね、天真。さあ、乗って。」

いつもの笑顔から表情一つ変えない友雅を尻目に、周りの牛飼童や付き人たちが、
天真のために車に乗る準備を整え、靴を預かり、仰々しく車が通りを闊歩し始めた。
微妙な上下動と、時間の感覚があまりない京の人々にとっては絶妙な速さで、車は御室寺へと向かう。




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